エッセイ以外の水上勉さんの本は初めてかも知れない。心臓の手術をされてからの「電脳暮らし」や不破哲三さんとのエッセイ、また若狭について語ったエッセイ的な本は何冊か読んだことがあるが、本格的な小説をほとんど読んでいなかった。この本を読んだきっかけは、青郷地区を中心に、若狭地方が舞台になっているから。青峨山=青葉山、三本松=三松、青峨小学校=青郷小学校、加斗、本郷、高浜などはそのまま使っておられる。また、笠井早男が死んだ崖は音海の断崖か?そうすると、猿谷郷とは音海?高野?今寺?また、宇田甚平のモデル、神社に言葉を書き残して上京したというモデルは一瀬雷信さんなのか。そして、桑子の話、なんともおどろおどろしい。
秘境の怪奇、そこに住む人々の宿命、呪われた人生、人間の業が背景に描かれる。そこに、どんどん引き込まれていく。癖になりそうな、妙なおもしろさがある。その土地が生む話とでもいうか。