2021年9月22日水曜日

小さな引揚者

【今日の1冊】「小さな引揚者」飯山達雄:写真・文 草土文化:刊


 ここに収録されている写真の中には、これまでに何度となく目にしたことのあるものがたくさん載っていました。非常に貴重な写真集である。文章はとばして、写真だけをながめていたわけだが、「一体この写真はどうやって撮ったのか」と不思議になった。引揚者がとることは不可能であろう。貴重品はロシアの兵隊に持って行かれたわけだから、カメラを隠し持つことはできないだろう。仮にカメラがあったとして、フィルムも準備できたとは思えない。2・3枚ならともかく。作者はどんな人なのだろう?などなど。

 そうして、改めて読み直してみて、大変驚いた。作者は、終戦直後に引き揚げてころられた方でした。しかし、引揚が全く進まない現状や現地の取り残された引揚者の現状を伝えるために、再度大陸に渡り、引揚者と共に船にのって撮影してきたのだった。すごい人がいるものです。

 ところで、カメラやフィルムはどうしたのか。それも大変でした。戦後の露天市を何日も歩きまわって集めたそうです。カメラは、ローライコード(6×6)1台とベビーイコンタ・カメラ(3×4)2台。ローライコードは、上からピントを合わせることができ、ベビーイコンタも片手で操作ができることから隠し撮りをするのに好都合だったからだそうです。フィルムは、ブルーニフィルム(6×6 12枚どり)26本、ベストフィルム(3×4 12枚どり)2本でしたが、 ブルーニフィルムをベストフィルムサイズに裁断して使ったどうです。そのほか、博多でもフィルムを手に入れ、500枚の写真が撮れる準備ができたそうです。これも、なみなみならぬ努力である。

 帰国後、引揚者の実態を撮影した写真をプリントし、50点ずつ3部作って、在外同胞引揚援護会に提出されたそうです。外務省とGHQにも渡されたはずです。きっとそのことが功を奏して、引揚事業が急ピッチで進められたに違いありません。一人の人間の勇気ある行動が世の中を動かしたと言えます。そして、この方の努力があったからこそ、引揚者の本当の姿を知ることができるわけです。よくぞ、撮ってくださいましたと感謝申しあげたい。中古品で少し高い買い物でしたが、値段以上の価値のある買い物でした。本当に素晴らしい仕事です。感謝!感謝!

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