2022年3月1日火曜日

氷の海を追ってきたクロ

 【今日の1冊】「氷の海を追ってきたクロ」井上こみち:著 学研:刊


 第二次世界大戦後、多くの日本人がシベリアに抑留され、極寒、飢餓、重労働という三重苦のなか強制的に働かされました。そんなつらく厳しい生活のなか、クロという一匹の子犬が飼われ、抑留者に、やさしさやぬくもり、そして生きる力を与えてくれました。時は流れて。1956年(昭和31年)、日ソ共同宣言が署名され、抑留者全員が帰国することになりました。犬は船に乗せることができないため、おろされたクロですが、船を追って冷たい氷の海に飛び込みます。そして、助けられたクロは抑留者たちと一緒に日本にやってきます。

 有名は、クロの話です。紙芝居にもなっています。ここでは、話の内容は、これ以上取り上げず、このクロに関わった方がどうして抑留されることになったのかを説明したいと思います。

 まずは、川口市三郎さん。この方が、建設現場でクロを拾い、ラーベリーに連れてきた方です。帰国に際して、ナホトカから港まで連れてきた方です。川口さんは、稚内生まれの漁師さんで、漁の途中、誤って日本の領海を越えてしまい、領海侵犯の罪とソ連んお情報を探りに来たスパイとして懲役20年の刑を受け、抑留されました。

 次に、松尾幸一さん。川口さんもいた作業班のA班の班長さん。肺結核にかかり、他の日本人より1年早く帰国します。もし生きて帰れないとき渡してほしいと写真撮影をします。その写真に、川口さんやクロも写っています。松尾さんは、陸軍少尉で、終戦直後、樺太島民の食糧事情を調べる仕事についていました。そのことが、ソ連の秘密を探る仕事をしていたと思われ、戦争犯罪人として軍事裁判にかけられ、懲役20年の刑を受け、抑留されました。

 最後に、郡司長次郎さん。松尾さんと同じく、作業班B班の班長さん。開拓団として、樺太で働いていた。終戦直後、会社の書類を持って、町を歩いているとき「スパイ」とされ連行されました。

 この三人の抑留にいたる理由は、理不尽極まりないと思います。どれひとつとっても、10年も抑留される理由には当たりません。言いがかりもいいところです。シベリア抑留というものの不当性に改めて憤りを感じました。クロの話は知っていたので、本の内容からは離れたことを書きましたが、この3人に限らず、一人一人の抑留者がどのような理由や経緯で抑留されたのか詳しく検討していきたいと感じます。

※本に載っていた記念写真。下の列の真ん中が「松尾さん」、その左で「クロ」を抱いているのが「川口さん」です。白黒写真をカラー写真にしてみました。勝手にしてはいけいないかなあ?と思いつつ。

0 件のコメント: