2021年7月12日月曜日

遙かなる満州

【今日の1冊】「遙かなる満州」町田典子:著 文芸社:刊


 町田さんは、1939(昭和13)年、3歳の時に満州に渡る。お父さんは、軍人であり、現役除隊となって前線を退いたタイミングで家族を呼び寄せたそうである。1945(昭和20)年、お父さんは、吉林市でソ連に拘束され、家族は離ればなれになるが、その後、1946(昭和21)年、錦州市で再会し、9月20日、軍人とその家族の引き揚げが再開されたことにより、葫蘆島から引き揚げ船「興安丸」に乗り、長崎県佐世保・浦頭港に引き揚げてこられた。

軍人としての引き揚げであり、生活もある程度守られていたのか、満州での混乱ぶりはあまり書かれていない。一方で、引き揚げ船が大型貨物船であったことから、約Ⅰか月に及ぶ船内の環境は劣悪だったようで、食料もほとんどなく、何人もの子供が栄養失調で亡くなったようだ。町田さんも、栄養失調のため脚気になり、心臓に障害が出て、口をきくことができない状態だったそうである。

この本の内容は、町田さんが45年ぶりに満州を訪問したときの記録である。お母さんは同行できなかったが、その代わり娘2人を同行させた。最初は、乗り気ではなかったようだが、この経験を通して、町田さんの思いは伝わったようであった。

なお、挿絵は、同じく満州からの引き揚げ者である森田拳次さんによるものである。

 戦後75年以上たち、人々の記憶も次第に薄れてきており、また、中国も近代化され町並みも様変わりしている。引き揚げの記憶を伝承する取り組みは今後も重要性がますと思うが、段々とむずかしくもなる。風化させずに、伝承させたい。

0 件のコメント: